一人の女の鬼、「紅葉(くれは)」をモチーフにされた作品となっている。
「鬼」という言葉を聞き、頭に角が生えた鬼を想像すると思うが、
この「紅葉(くれは)」は、人の歴史の闇に消し去られた人間、「あいつは鬼だ」と呼ばれ、始末された女盗賊のことである。
今回は、陰陽座で脚色された物語を読み綴る。かつて愛した高い身分の男性。一人の子を身籠り、
遠い地にて愛を注ぐが、時代が進み、やがてその愛していたはずの男性から兵を嗾けられ、命を狙われる。
話し合いで何とかしようとしても、「鬼」と呼ばれ、命を狙われる。
やがて観念する、紅葉。しかし、命尽きる最後、一言。
「其の手を差し向ける前に、『鬼』という言葉は止めてください。」
そう言ったあと、大切な我が子との別れを惜しみ、「さぁ…」と覚悟をきめ、命の灯は断たれた。
最後に誇りを懸けた悲恋を柔らかく、力強く歌う黒猫。
ヘヴィメタルの激しさは無いものの、どこか強さを感じさせるメロディは、抵抗無く心に響く。
其の手を 差し向ける前に 言選りを 願い上げる
皇に 傅かる 貴方に せめても 手向く迄
疾走感・しかしどこかずっしりとした重さのあるサウンド。
瞬火と黒猫のツインヴォーカルにより、
熱く滾らせたまま持続させるような焦らされた印象を感じさせる。
タイトルの「飛影」は、創作の妖怪である。
とある村の少年が馬を飼っていた。その馬は影の如く飛ぶ駿馬で「飛影」と呼ばれていた。
ある日、一国の殿がその馬を奪う。しかし馬は、走らず、やがて殿に殺される。
少年は、亡霊となった飛影に跨り、殿の元へ向かう。
巨大な馬蹄による復讐の一撃、浴びさせるために。
嘶ふ聲に気取らば 踊る影が現る
翳す太刀を諸共 馬蹄受けて 贖え
「木葉天狗」とは、天狗界の中では、最低ランクの妖怪で、
言わばアゴでこき使われる存在、ワーキングプアである。
人間世界でもあるような、平社員の辛さ、
ヒマの無い毎日を過ごしても出世しない哀愁をどこかコミカルに歌う陰陽座。
歌詞の世界が浮き彫りに出すような招鬼による作曲センスと、本人による歌詞内容のオーダー。
陰陽座としては異質な存在ではあるもの、こういったテイストの曲は過去にもあり、取っつきやすさの一つでもある。
抜かれて 取られて 幾 天狗 丸儲け
巻かれて 敷かれて 幾 明日は何方だろう
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my evaluation
全曲、何かしらモチーフはあるものの、創作妖怪で固まったシングル。
俺は、過去、「鬼」についての研究発表を授業の一環として大学でやったことあるから知ってたけど…
ある程度の知識が無いと、インパクトも無いのだろうなぁ…という気持ちもある。
「紅葉」を「モミジ」って読んだ人いるだろうな。
紅葉に関しては、歌詞の意味を組めなければ切ないけれどヘヴィメタル好きには否定されそうな印象。
シングルとしては、物足りない印象があるかもしれないが、それもそのはず。
この作品の位置づけとしては、次回アルバム、「魑魅魍魎」への布石。
人の負の心を投影した妖怪と呼ばれた存在を歌うことへのコンセプトの構築のための先駆けシングルである。
仮に歌詞を読まない人は、歌詞を辞書片手に読んでいってほしい。
初めは辛いかもしれないが、その世界に触れたとき、曲を聞く印象は変わるはずなので。
知っている人、教えてほしいのだが、紅葉の最後あたりの、
「暮れ果てる 此の子に」という歌詞で「暮れ果(クレハ)てる」で、韻を踏んでいるんだろうか?
…だとすると、凄く細かいところまで神経使っているんだなぁ…と高評価なのだが。(笑)
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